環境化学分野

考古学の視点から見る環境分析

私たち人間は、地球上での自然環境から生物進化や文明の発達を物語る歴史環境に至るまで、空間的にも時間的にも広い範囲の環境に取り巻かれています。環境化学分野では、こうした環境を形作る化学物質の存在状態や性質、環境への影響などを明らかにするために、有機化学、分析化学、生物化学など化学のほとんどすべての分野を基盤に、最先端の機器分析技術や合成手法を用いた基礎から応用までの研究に取り組んでいます。

研究分野・教員紹介

竹内 孝江 准教授
環境質量分析学

文化財保存のための微生物の生態化学と極微量分析

竹内 孝江 准教授

高松塚古墳の壁画などの文化財が微生物により損傷を受ける例が多数報告され問題になっています。微生物による文化財の劣化を少なくするためには,カビ微生物の発生を迅速に検出することが重要です。私たちの研究室では,カビから放出される揮発性有機化合物(MVOC),いわゆるカビ臭物質を可搬型イオン移動度装置でオンサイトモニタリングすることにより,カビの種類や生育段階を推定するトータルシステムの開発研究を行っています。図(右)は,ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて計測したA. fumigatusのMVOC発生量の経時変化です。ベルガモテンなど,セスキテルペン類は胞子形成時にのみ生成していることを発見しました。生育段階に応じて特異的にカビから代謝されるMVOCがあることやMVOCの種類や量はカビ種や生育環境に依存することがわかり,これを利用してカビ種を同定するソフトウェア”MVOC Finder”(図(左))を開発しました。
現在は,文化財環境において揮発性有機化合物を介した微生物間コミュニケーションの研究に取り組んでいます。

研究者総覧
研究室HP
左図は,カビ臭物質の計測データからカビ種を同定するソフトウェア”MVOC Finder”。右図は,ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて計測したA. fumigatusのMVOC発生量の経時変化。
左図は,カビ臭物質の計測データからカビ種を同定するソフトウェア”MVOC Finder”。右図は,ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて計測したA. fumigatusのMVOC発生量の経時変化。
三方 裕司 教授
環境分析化学

有害重金属を検出・定量・除去する化合物の開発

三方 裕司 教授

急激な産業活動の発展あるいは都市生活の過密化などにより,重金属やリン化合物による水環境の汚染が深刻となっています。私たちの研究室では,種々の有害重金属イオンやリン酸種の高選択的蛍光検出・捕捉剤の開発研究を行っています。図では,私たちが開発した化合物である8-TQOEPN (2c)が,カドミウムイオンに応答して選択的に蛍光を発することを明らかにしました。他にも,亜鉛イオン,水銀イオンやリン酸種などの無機イオンに対する選択的蛍光プローブの開発にも成功しています。現在は,有害重金属などを検出するだけでなく,環境から取り除くことができるような分子の創製にも取り組んでいます。

研究者総覧
研究室HP
8-TQOEPN (2c)による溶液中および細胞内カドミウムイオンの選択的可視化
図 8-TQOEPN (2c)による溶液中および細胞内カドミウムイオンの選択的可視化
吉村 倫一 教授
環境コロイド化学

環境適合型両親媒性化合物・汚染物質除去法の開発

吉村 倫一 教授

分子内に2つの疎水部と2つの親水部を有するジェミニ型界面活性剤は、種々の用途に対して従来の界面活性剤よりも数十分の一から数百分の一の使用量で効果を発揮することから、環境や人体に対する負荷の低減に貢献でき、『環境適合型界面活性剤』として注目されています。私たちの研究室では、さらなる性能の向上や機能性の発現を目指して、新しい構造のジェミニ型ならびにトリメリック型構造の環境適合型界面活性剤の開発を行っています。また、これらのジェミニ型やアミノ酸・糖型などの環境適合型界面活性剤を用いて、放射性物質や有機物などの環境汚染物質の除去に関する研究をコロイド・界面化学的な立場からアプローチしています。

研究者総覧
研究室HP
世界最高性能の放射光発生をもつ大型放射光施設「Spring-8」に設置のX線小角散乱装置(左図)や透過型電子顕微鏡または光学顕微鏡(右図)を用いて、環境適合型分子集合体の構造を調べています。