豊かな生物相が外来種の侵入を防ぐ 環境科学コース / 生物環境学分野 遊佐 陽一 教授

生き物は環境の中で生きており、また環境に影響を与えて暮らしています。
このような生き物と環境の関わりを通して環境をどう見るのかについて学び、
また環境問題に生物学的な視点から取り組んでいきます。
今回は、遊佐先生の研究テーマのひとつであるスクミリンゴガイを取り上げ、
生態系の保全から生物多様性、外来種問題についてご紹介します。

遊佐 陽一 教授 遊佐 陽一 教授

間口は広く、専門を極めて環境のプロに

化学や情報科学の知識も学びつつ、生物と環境に関することを学び、研究できる分野です。授業の中でいろいろな知識や技術を身に付けながら、卒業研究では自ら研究を進めつつ専門性を高め、環境のプロを目指します。入学して初めての夏に、希望者は海・川・森いずれかの野外実習に参加します。フィールドワークが重要なので、早くから現場に出て、実際の生き物を見てもらいたいと思っています。授業や卒業研究でも、細胞内から田んぼや深海まで、そして微生物から高等動植物までを対象として、生物学のさまざまな領域をカバーしています。大学院では、さらに専門を極めることができます。

外来種に対する生態系の抵抗性

例として、外来種のスクミリンゴガイについての卒業研究をいくつか見てみましょう。これはジャンボタニシとも呼ばれる南米原産の淡水巻貝で、稲の苗や稀少な水生植物を食べるなど問題が大きいことから、世界および日本の侵略的外来種ワースト100に入っています。まず、日本の河川に生息するさまざまな動物にこの貝を与えてみたところ、魚や亀など実に多くの種が捕食者となることが分かりました。そこで、奈良県の大和川水系の多くの地点で、捕食者とこの貝の数を調べてみると、やはり捕食者の多い地点ではこの貝が少ないことが分かりました。生態系には、本来、外来種の侵入を防ぐ抵抗性があるのですが、生物相が貧しくなるとその抵抗性が失われて、外来種が侵入しやすくなるようです。

環境を操作して外来種をコントロールする

では、どのような環境で生物相が豊かになり、外来種への抵抗性が高まるのでしょうか?田んぼ周りの水路を調べてみると、水路の底と側面をコンクリートで固めた人工的な水路では動物が少なく、底を自然のままに残して両側をコンクリート化した水路では、自然水路と大差ない数の動物種がいました。逆に、スクミリンゴガイの数は人工的な水路でより多くなっていました。 では、環境を操作して外来種への抵抗性を高められるのでしょうか?滋賀県の琵琶湖周辺では、「魚のゆりかご」と呼ばれる試みがなされています。水田と水路の水面の高さを等しくすると、ナマズやフナが水田で産卵し、稚魚が水田で育ちます。実際、ここで動物相が豊かになると、スクミリンゴガイが減るようです。人間が壊してきた環境を修復することで、生物多様性を高め、外来種の侵入リスクを減らす。このような研究をさらに発展させ、生物多様性を守ることの意義を一緒に考えてくれる人を求めています。