人工衛星の観測でわかる、温暖化をもたらす大気環境。環境科学コース / 地球環境科学分野 林田 佐智子 教授

地球の環境問題は多岐にわたっています。
地球環境科学分野における共通の研究手段は人工衛星からの観測であり、
問題意識としては地球温暖化にあります。
観測データから様々な要素を分析し、現在の地球環境変動の状況を的確に把握します。
今回は、メタンが地球温暖化に及ぼす影響についてご紹介します。
人工衛星の観測から見えてくる、地球環境の問題点について考えていきましょう。

林田 佐智子 教授 林田 佐智子 教授

地球の温室効果物質、メタンの発生原因。

地球環境研究の特徴は研究対象が多岐にわたっていることです。地球環境科学分野でも扱うトピックは教員によって異なりますが、共通しているのは、人工衛星からの観測という手段と、地球温暖化問題を切り口にしているという2点にあります。私の場合は、大気微量成分の研究に取り組んでいます。例えば、地球温暖化をもたらす物質といえば二酸化炭素(CO2)が特に問題視されます。しかし、それは温暖化の要因のすべてではなく、メタンや亜酸化窒素の他、オゾンやエアロゾルなど、大気微量成分と呼ばれる多くのものが要因としてあげられます。これらはごく僅かな量でも地球環境問題に大きな影響を及ぼします。その中でも私は特にメタンについて研究しています。CO2は化石燃料を燃やすことで発生しますが、メタンの場合は農業などの人間活動から発生します。例えば牛や羊などの家畜のげっぷには多くのメタンが含まれています。

人工衛星が可能にした、広域の大気観測。

水田もまた、メタンを発生させる要因です。水を張ることで人工的な湿地のような環境が作られ、嫌気性(けんきせい)の環境で、メタン菌がメタンを発生させるからです。もちろん自然湿地でもメタンが生成されています。現在懸念されているのは、温暖化によりシベリアの凍土が溶けてしまうことです。その広大な面積からいって、下から吹き出すメタンの量も多いと予見され、さらに温暖化が進む危険性があります。そのような現象を監視するためには、広域の観測が必要ですが、温室効果ガスの広域観測を飛躍的に進歩させたのが、人工衛星「GOSAT(いぶき)」です。日本がつくった世界初の温室効果ガス観測衛星で、2009年1月に打ち上げが成功し、現在も順調に観測を続けています。従来は難しかった温室効果気体の全球観測が可能になり、広域的な濃度分布がわかるようになりました。データの空白域だった東アジアなどの内陸部に関しても、人工衛星でデータをとれるようになり、ホットスポットと呼ばれる高濃度地域の発見にも役立っています。

データが語りかけてくる、研究者の喜び。

私は、現在、インドなどでの現地観測と衛星データを比較検討する共同研究プロジェクトに取り組んでいます。人工衛星のデータを見ているだけでは、核心を見逃してしまう場合があります。データ解析に最も必要な想像力や直感力を養うためには、現地に足を運ぶことが大切です。その上で衛星からの画像を見れば、データが語りかけてくるようになります。ここではご紹介できませんでしたが、私はメタンだけでなく、様々な大気微量成分の解析を行っています。その中には大気汚染物質であるオゾンなども含まれます。最近のことですが、東アジアで検出された地表付近のオゾン分布を見て鳥肌が立ちました。その発見の喜びや驚きは研究者の特権です。私はそれを「砂の中のダイヤを拾う喜び」と表現しています。単なる数字の羅列に見えたデータが、キラキラと輝いて見え出す瞬間があるからです。世の中でわかっていないことほど面白いと感じます。我々の研究分野は、こんな研究者の喜びに出会ってもらえる分野だと思います。